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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

あまのがわ喫茶室27

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あまのがわ喫茶室27

憶えているよ、と自慢気に胸を張った結弦が愛おしくて、望遠鏡の設置と月への照準合わせは任せることにした。

小学生と中学生の頃、確かに学校の授業で天体観測をやったけれど、たったの二度だけだ。涼介はというと、その知識は当時満足したきり、過去へ置いてきてしまった。手際良くレンズを嵌め、焦点を合わせることに熱心な結弦を飽きることなく眺める。

今日は星が綺麗に瞬いている。夏はガスが漂ってなかなか難しい季節だが、朝から吹き続けていた風が上手い具合に空の霞を取り除いてくれたようだった。

「涼介!」

いつもよりワントーン高いはしゃぐ声が結弦から発せられる。涼介はどうにか苦心して早見表にある夏の大三角形を見つけたところだった。

大学の屋上は二人きりではない。同じように望遠鏡を持ち込んで天体観測に打ち込む学生たちが涼介たちとは別のところで数人固まっていた。涼介の大学では事前に申請すれば夜も構内に立ち入れる。屋上も高く強固なフェンスがあるので、学生に開放されているのだ。

「何か見つけた?」

「クレーター!」

天野の貸してくれた望遠鏡は持ち運びのしやすい、初心者向けのものらしい。よって感度はそこまで高くないので、この望遠鏡で見えるクレーターは月のものだろう。

「よく見える?」

「うん!」

呼んだくせに、譲る気がないらしい。彼の全神経は目に集中していて、口が半開きなものだから、思わず笑ってしまう。弾む声は珍しく、いつまでもその声を聞いていたいと涼介は願わずにはいられない。

流れ星にお願いする約束を、果たして結弦は覚えているかどうか。望遠鏡を覗き込んだまま一向に離れようとしないので、涼介は一人で快晴の夜空を見上げてそこかしこを探してみる。

「ここじゃ、難しいかな・・・。」

ビル群からは少し距離があるとはいえ、ここも十分都会だ。満天の星空というにも心許ないので、たとえ眼前を一つ二つ駆けていったところで気付けるかどうかは怪しい。

ずっと中腰のままつらくないのかと横目で結弦を見て、また堪え切れずに笑みをこぼす。

「涼介も見る?」

「うん。見ようかな。」

月や星より結弦を見ている方が楽しいけれど、その気持ちはそっと胸に仕舞って、目を輝かせて譲ってくれた彼の特等席を拝借する。

「お、凄い。こんな近くに見えるもんなんだ。」

「凄いでしょ?」

「うん。結弦もピント合わせるの上手だね。」

チラリと盗み見た結弦の顔は恥ずかしそうにはにかむ。

こんなに喜ぶなら、この冬どこかへ見に行くのもいいかもしれない。

結弦、と声を上げ掛けたところで、違う呼び声が被さってくる。

「やっぱり、加賀くんだ。」

「あ、あぁ・・・。」

幸福感で緩みかけていた理性がピシッと音を立てたように引き締まる。涼介を呼んだのは同じ学部の女の子たちだ。たまに講義を受けていると声を掛けてくることがあるけれど、彼女たちの名前までは知らない。

「加賀くん、星好きなの?」

「私たちも混ざっていい?」

勢いに屈して頷きかけたところで、急に結弦が声を上げる。

「涼介、もう帰ろう。」

「え?」

結弦の声に剣呑とした空気を感じて、涼介は焦る。彼女たちへの返答は据え置いて、結弦に応えることを優先した。

「片付け、俺もやるよ。」

「・・・うん。」

「ゴメン、もう撤収するから。」

「そうなの? 残念。」

飲みに行かないかという声かけに気付かぬふりをして、片付けに参戦する。

一難去って、また一難。先日、結弦を立ち直らせたばかりだというのに、結弦はまた口を結んで納得いかないという顔をしている。何がまずかったのか可及的速やかに聞き出さないと、手遅れになったら大変だ。

要領良く片付ける結弦の横で、涼介は大して役にも立たずオロオロとするばかり。結弦にしては珍しく足早に急ぐので、涼介は女の子たちに適当な挨拶を残して彼の背中を追い掛けた。


 * * *


大学の構内を出た途端、結弦の足が遅くなる。そして涼介の肩をジッと見据えると、憑き物でも払うように、無表情のまま涼介の肩を手で払っていく。

「・・・結弦?」

結弦の行動に疑問しか湧かず、何を思ってのことなのかと目で問い掛けてみる。

「涼介に・・・触ってた・・・。」

想像もしていなかった言葉を結弦の口から聞いた涼介は、嫉妬している結弦に申し訳ないと思いつつ、つい頬を緩める。

「嬉しいな。結弦がそんな事思ってくれるなんて。」

「嬉しい?」

「うん。」

あからさまにホッとした顔をする結弦の頭を撫でて、家までの道を二人でいつものペースで歩き始める。

独占欲があることに安堵したのは本当だ。心のどこかでまだ結弦の曖昧さに、好かれている自信がなくなる時があるから。

「今日、うちに来る?」

「うん。」

真剣な面持ちで頷いた結弦の瞳は、食い入るように涼介に向けられている。その視線を心地良く思いながら、涼介はアパートまでの道のりを軽やかな気持ちで結弦の隣りを歩いた。









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