初めて寝たふりなんてしてしまった。涼介が怖かったわけではない。自分自身がどうなってしまうのかわからなくて戸惑ったのだ。
頭上から聞こえてきた大きな溜息にジッと耳を凝らし、彼が渋々諦めてくれることだけを待った。
してもらうだけしてもらって、涼介を置いて寝てしまうなんて酷い事をしていると思う。でも気持ちがいっぱいいっぱいで、今夜ばかりは許してほしかった。
結弦の溢したものを拭い去って身なりを整えてくれる優しさは涼介らしい。聞こえてきたのは溜息だけで、特に悪態をつかれることもなかった。その事に安心していると、本当の眠気がやってくる。今晩はこのまま目を開けるつもりはなかったので、訪れた眠気に任せて結弦は身体から力を抜いた。
そして目覚めた翌朝、すでに涼介は隣りで目を開けていて、結弦のことを眺めていたらしいことに気付く。なんだか居た堪れなくて身を引こうとしたものの、それを察したらしい涼介の腕に捕まってしまう。
「結弦、ダメ。」
「涼介・・・。」
抱き寄せられてすぐにわかる。涼介の兆している前を躊躇うことなく押し付けられて、結弦は顔だけでなく身体全体を火照らせる。
掴んでくる手も優しいいつもの力加減とは違い、少し乱暴だ。結弦に有無を言わせないようなことをしてくる彼ではないのに、強引なことに驚く。というより、昨夜、結弦が寝たふりなんてしたものだから、耐えられるものも耐えられなくなっただけかもしれないが。
「りょ、涼介・・・」
「お願い、結弦。」
手を掴まれて、腰の前で主張する涼介の昂りへ導かれる。布越しでもわかるくらいに猛っていて、どうなっているかわかるだけに、結弦の顔はさらに熱くなった。
「一晩我慢したんだよ?」
「う、うん・・・。」
涼介にこんな風に強請られたことなんて、もちろんない。彼の切羽詰まった顔も見たことはなかったと思う。涼介にこんな顔をさせているのが自分だという実感をようやく持って、結弦は涼介を見上げながら恐る恐る手を伸ばす。
布越しに幾度か触れてみると、そのたびに涼介が息を呑む。少しだけ降ろされて現れた分身をまじまじ眺めていたら、涼介から抗議の声が上がった。
「結弦・・・恥ずかしいから、そんなじっくり見ないでよ・・・。」
ついまなざしが観察眼へと変わっていた。直に触れてみると、熱くて硬くて、結弦の手の中で熱量を増していく。
「結弦、ちょっとだけでいいからして?」
「ちょっとだけ?」
ちょっとだけ、ってどれくらいだろう。
涼介と目を合わせて尋ねると、恥ずかしさを紛らわすかのように口付けをされる。ふわっと触れるだけのキスは気持ちがいい。身体がじわりと温かくなって、胸がいっぱいになっていく。
様子を伺うようにそっと結弦の唇を割って入り込んできた舌が、次第に口の中を掻き回していく。その動きに翻弄されながらも涼介に伸ばした手をぎこちなく動かしてみると、涼介がキスをしながら喉を鳴らしたのがわかった。
「どうしよう・・・。」
「どうしたの?」
結弦の肩口に顔を埋めて涼介が息を呑む。尋ねてみても答えは返ってこない。結弦が擦るたびに涼介の分身が膨れていくばかりだ。
「結弦・・・ッ・・・」
こんな風に色っぽい声で呼ばれることは初めてだ。焦った呼び声と息を呑むさまが、涼介を高めているのだとわかる。結弦も昨夜、この高まりを経験したばかりだ。涼介の陥っている状況を想像すると、同調して彼の昂りが移ってしまいそうになる。
熱を放つ瞬間は眼前が真っ白になって星が散る。そういえば星を見に行こうと約束したまま、果たせていなかった。
「涼介」
「ゆ、結弦、いい?」
「うん?」
「ッ、で、出ちゃう・・・」
「え・・・」
天体観測に飛びかけていた意識が、涼介の切羽詰まった声に呼び戻される。
「・・・ッ・・・ふぅ・・・」
無意識に動かしていた所為で幾分強く擦ってしまったのかもしれない。涼介が息を呑んで身体を震わせるまで、あっという間だった。結弦の手に温かい飛沫が繰り返し放たれる。
熱っぽい顔で眉を顰める涼介をジッと眺めていると、急に身体を起こしてベッドの際まで離れていってしまう。不思議に思って顔を覗き込むと、困った顔をしていた。
「ごめん。ちょっとじゃ、収まんない・・・。」
「もう一回する?」
「・・・ううん。」
大丈夫だと言いながら、肩で苦しそうに息をする涼介を見上げる。迷った挙句、涼介の言葉を鵜呑みにして、天体観測のお誘いをすることにした。
「涼介」
「・・・うん?」
渡されたティッシュで手を拭いながら、鼻をツンと刺激した匂いは自分のものと少し違う気がした。
「望遠鏡借りて、星を見に行こうよ。」
「う、うん・・・天野さんに借りて行く?」
「うん。」
「はぁ・・・。」
素敵な約束だと思うのに、涼介が苦笑して大きな溜息をつく。意味するところがわからなくて戸惑っていると、今度は悪態をついてくる。
「結弦のバカ。」
「ッ・・・ん、わッ!」
突然ベッドに押し倒されて、涼介が覆い被さってくる。構える間もなく身体中をくすぐられて、結弦は身体を捻りながら声を上げた。
「涼介ッ! ヤ、ダッ!!」
ベッドの上を逃げ回っていると、コツンと結弦の頭が壁に軽く突き当たる。
「・・・涼介?」
突然涼介からの攻撃がやんで、代わりに彼の唇が結弦の唇に押し当てられた。
涼介とのキスはやっぱり気持ちがいい。心の奥から温かいものが溢れてくる。そして何より、涼介が嬉しそうにしてくれることが一番嬉しかった。
「あ・・・。」
「結弦?」
「餌、あげなきゃ。」
「・・・。」
涼介と気まずかったことで頭がいっぱいだったから、すっかり家に置いてきぼりのカタツムリのことを忘れていた。
しかし涼介の顔が途端に顰められる。おまけに結弦の頬をなかなかの強さで抓った後、怒ったように顔をそむけてしまった。
「涼介・・・怒ってる?」
「・・・怒ってない。」
とげとげしい言い方をするわりに怒っていることは否定するので結弦は戸惑う。何も言えずに黙っていると、大きな溜息まで追加された。今朝だけで、何度目の溜息だろう。
「涼介、溜息つくと幸せが逃げちゃうよ。」
「・・・誰の所為だと・・・。」
「え?」
「・・・。」
涼介の言い方から察するに、原因はどうやら結弦の方にあるらしい。本気でわからなくて首を傾げて応えると、涼介の手が乱暴に結弦の髪を掻き混ぜる。そしてあちこち跳ねてしまった頭部を涼介の手でホールドされながら、拗ねたように尖った唇が結弦の唇に重なった。
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朝霧とおる