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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

あまのがわ喫茶室13

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あまのがわ喫茶室13

履修登録を済ませた結果、選択科目の多くで飯島と被っていることがわかり、授業が始まってからは二人で構内を過ごすことが多かった。

飯島は社交的で色んな人に声をかけたり、かけられたりする人物だ。自分と違うタイプの人間を観察するのはとても楽しいと知る。今まであまり人に対して興味を向けることがなかったが、根っこに共通するものがあると案外悪くないものだと感じる。

長い間、その対象は涼介一人に絞られていたが、飯島や飯島経由で知り合う人々とも苦心することなく付き合えることを感じ、入学前に抱いていた若干の不安はいつの間にか消え失せていた。

「あれ・・・。」

授業前に図書館の自習スペースを確保したものの、最近愛読書の仲間入りをした新しい図鑑が鞄の中で見つからない。忘れてしまったのだと残念な気持ちでいると、スマートフォンが何かの着信を告げたことに気が付く。自分に連絡をしてくるのは相変わらず涼介一人しか心当たりがない。すぐさまメッセージを開くと、たった今自分が鞄の中で探した図鑑のことに関しての連絡だった。

涼介のアパートを訪ねた時、置いて帰ってきてしまったらしい。授業に使う本だと勘違いした涼介は、結弦の大学に届けに向かうと申し出てくれていた。

訂正しようと慌てて電話したが、どうにも移動中らしく、涼介は電話に出ない。大した距離でもないので、連絡がつく前に、涼介はこちらに着いてしまうかもしれない。

申し訳ないことをしたと思いながら、荷物をまとめて外の門へ向かう。すると涼介からもう一度メッセージが入り、もう間もなく着くとのことだった。

「結弦!」

結弦に向かって手を振るのは、間違えようもなく涼介だった。長身だから遠くからでもその姿は捉えていたけれど、やはりどこからどう見てもスペックの高い幼馴染だなと思う。たいしてその姿を認識できないうちから格好良さを醸し出せるのは、自分の周りには涼介くらいしかいない。

信号を渡って辿り着いた涼介に、ごめんと一言謝る。きっと彼も忙しいはずなのに。

「結弦の家行ったんだけど、出た後だったからさ。」

「ありがとう。涼介、授業は?」

「今日、午前中は講義ないんだ。午後からの日だから助かった。」

「うん、ごめんね。」

「大丈夫だよ。」

あまりにも申し訳なくて、授業に使わない物だとはついに言い出せなかった。

涼介は置き忘れて出た結弦を咎めるわけでもなく、いつも通り優しい笑顔を向けてくれる。そのことに心底ホッとして、胸をチクチクと刺す罪悪感は仕舞うことにした。同じことでまた迷惑をかけないようにしようと自分に言い聞かせる。

すぐさま帰路についた涼介の姿を見送って図書館に向かおうとすると、後ろからよく知る声が自分を呼ぶ。

「しーらとりッ!」

「うわッ!」

飛びついてきたのは飯島だった。

「ねぇ、今の人、誰?」

「え?」

「門のところで話してた人。」

「あ、涼介・・・幼馴染だよ。」

初対面の飯島に名前を出したところでわかるはずがないことに気付き、幼馴染だと言い直す。

小さい頃からずっと一緒だと話すと、飯島には付き合いの長い幼馴染はいないらしく、物珍しがってあれこれ尋ねてきた。

「なんか、モデルみたいな人だね。背も高いし、かっこよかった。結弦と取り合わせが意外だったから、どんな関係かと思っちゃった。」

「うん。」

「ああいう人の彼女って、凄い美人だったりするのかなぁ。」

「彼女?」

「いないの?」

「うーん・・・。わからない。」

何だそれ、と飯島が笑い出す。しかし本当に聞いたことがなかったので、首を傾げるしかない。

「仲良いんだろ? そういう話、しないの?」

「うん。」

「そういうもんかなぁ。」

飯島がまたおかしそうに笑う。普通、仲の良い幼馴染はそういう事を話したりするんだろうか。涼介とそういう話はしたことがなかった。結弦自身は誰かと付き合うどころか、誰かに対して恋愛感情というものを持ったことすらないので、当然そんな話を涼介にしたことはない。

「変?」

「別に変ではないんじゃない? わかんないけど。」

「そっか。」

「俺も何考えてるかわからない女の子より、ペンギンとかイカの方が好きだもん。」

「イカ・・・美味しいよね。」

「白鳥、食う方じゃないってば! 確かに旨いけど!」

「あ、見る方?」

「白鳥、ペンギンは食わないだろ?」

「そうだね。」

飯島がゲラゲラと笑い出したので、結弦もつられて笑う。

恋をするのは楽しいのだろうか。自分の足りない想像力では、何が人の心を恋に結び付けるのかがわからない。

結弦が草花を愛でたり、飯島が海洋生物を追い掛けたりするより心惹かれるものだとしたら、是非とも経験してみたいと思う。しかし結弦の中で恋というものは正体のわからない異次元の現象だったので、疑問ばかりが先に立つ。恋をするという感覚は全く未知の存在にしか思えず、想像してみることすら困難だった。

大講堂の前で突っ立って二人で話していると、次第に門から流れてくる人の数が増え始める。父から入学祝に買ってもらった腕時計に目を落とすと、授業の開始時刻が近付いていた。

「白鳥は一限、何?」

「フランス語。」

「俺はドイツ語なんだ。じゃあ、また後でな!」

「うん。」

二限目からは農学部の必修科目が続くので飯島と一緒だ。暫しの別れを告げて手を振り、結弦は教室に向かい始める。構内では慌ただしく人の波があちこちで動き回っていた。










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