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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

あまのがわ喫茶室10

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あまのがわ喫茶室10

天野と意思疎通を図る結弦を見て、彼も成長したのだなと思っていた昨日までの自分を撤回する。根本的なところは何も変わっていないらしいことがわかった。夢中になったらずぶ濡れになっていることすら気付かないなんて、難があり過ぎるだろう。

結弦の好奇心を一心に受けた生き物は小さな瓶に入ってノロノロと這い回る。カタツムリに僅かながら嫉妬心を抱いてしまったことを悲しく思い、涼介は小さく溜息をついた。

ずぶ濡れになることも厭わず追いかける相手が自分であればと望まずにはいられない。しかし思うだけ虚しいのも確かだ。

結弦にとって涼介は観察対象ではない。あるかないかも曖昧な空気のような存在。あまりに虚しいから、なくてはならない酸素だと思うことにしよう。それなら結弦にとって自分が、カタツムリよりは存在意義のある生き物だと思える。

傘の存在も忘れて大事に持って帰ってきたくらいだ。結弦は飼うつもりだろう。幼馴染の涼介にさえ結弦と暮らすことはハードルが高いというのに、軽々その壁を越えられた気がして悔しい。

涼介が残念な思考回路に嵌って行き詰った頃、結弦はようやく身体を温めてバスルームから上がってきた。

「涼介、あったかくなったよ。」

「風邪引かないといいけど。」

「うん。」

涼介の言葉に結弦が大きく頷く。風邪を引きたくないとは思っているらしい。なんだかんだ大学生活が楽しみなのだろう。それでなくとも一年目の春はやることが盛りだくさんだ。休んでしまうと履修届にも支障をきたすから、休まないに越したことはない。

髪をタオルで雑に拭いながら、結弦はソファに座る涼介のもとへ一直線に歩いてくる。部屋に置いてあるソファは小さい。涼介が大柄なので二人で座ったら、少々窮屈なくらいだ。しかしそんなことを全く気に留める様子もなく、涼介の隣りにちょこんと体育座りをして収まる。

身を寄せてきた結弦の身体からは、涼介の忍耐力を試すようにシャンプーの香りが漂ってくる。好きな人から自分と同じ香りがするというのは、なかなか刺激的な状況だ。大き過ぎる部屋着をまとう姿も涼介の身体に疼きをもたらす。

恋人だったら、どんなにいいだろう。手を伸ばして当たり前に受け入れてもらえる関係は、夢のまた夢だ。

「結弦、寛ぐ前に、髪乾かしておいで。俺は夕飯用意してるから、終わったら手伝ってよ。」

「うん。」

風呂上り、髪も乾かさず脱力して寛ぐ癖は変わっていないらしい。昔の彼なら何を言っても強情に動こうとしなかったが、少々気まずいことをした自覚はあるらしく、今日ばかりは素直に立ち上がって洗面所へ向かう。

ずぶ濡れの彼を見た時、浮かんできたのは小言より抱き締めたいという衝動。好きという気持ちは理屈では説明しようがない衝動がついてまわる。抱き締めたい欲求を飲み込む代わりに、自分は甲斐甲斐しく世話をする。きっとこの先、何度同じことがあっても、彼の特別であるための努力は惜しまないだろう。

夕飯はグラタンにすると決めていた。マカロニを茹で、鶏肉とトマト、ブロッコリーを炒めた後、ホワイトソースを絡めていく。高校生の頃、何度も結弦に強請られて作っていたものだから慣れたものだ。

最後にパスタ用のミートソースとチーズを盛り付ければ、後はオーブンレンジに入れるだけだ。出来合いソースのオンパレードだが、二人のお腹は十分これで満ちてくれる。

洗面所からドライヤーの音が消え、間もなく結弦が涼介のそばに立った。

「サラダ、盛り付けてくれる? 俺はスープ作っちゃうから。」

「うん。」

スーパーマーケットには小分けにパックされた使い勝手の良いサラダがある。色んなカット野菜が入っていて彩りも良く、独り暮らしの自分は重宝してきた。葉物野菜を丸々一個買ってしまうと腐らせてしまうのがオチだからだ。

つまり結弦はお皿を用意してパックを開け、盛り付けるだけだ。しかしパックを開封したと思ったら、何故かキッチンから離れていく。

「結弦?」

「ご飯、あげないと。」

もうすでに彼の生活はカタツムリ中心らしい。テーブルに置いてあった瓶の蓋を開け、嬉しそうにサニーレタスを落として見守っている。キッチンに放置したままのサラダの存在は、もうすでに彼の頭にはないだろう。いつまで経っても戻ってこないので、涼介は炒めていた玉ねぎに水とコンソメの素を投入したところで、結弦に声をかける。

「結弦。そろそろ人間の食事も用意して。」

「あ・・・そっか。」

結弦は小さく呟いたが涼介の耳にはしっかり届いていた。またやってしまったという顔をしてキッチンに舞い戻ってくる。涼介の顔色を窺うように見上げてきたのは、涼介が機嫌を損ねていないかどうかは気になるからだろう。

まるっきり隠れていない一連の動作がおかしくて、涼介は笑う。結弦はそんな涼介を不思議そうに見ていたが、怒ってはいないと納得したのか、ようやくサラダの盛り付けに着手した。








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旅行中も更新を続けられる算段がつきました。
日本で予約投稿をして、出掛けることに致します!

世羅とフェイの年末年始話は移動中の飛行機で練ることに。。。
隣りに鎮座する旦那の目を避けつつ、どれだけ出来るかは定かでありませんが、
頑張りたいと思います(笑)
映画を見ると張り切っていたので、私が眼中にないことを祈るばかり。。。
「碧眼の鳥」番外編は12月20日頃からスタートできればなぁ~、と。

寒い日がじわじわと多くなってきております。
皆さま、体調にはお気を付けて!!
それでは。
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