広い家に住もうと言い出したのがどちらだったか、今となってはわからない。しかし非日常に浮かれる優希と違って、和希は疲労困憊だった。九時五時生活で残業もなく帰って来る優希と、時間に追われて寝る間も惜しんで働いている和希。そのくせ家事全般の比重は和希に偏っているから、疲れて当然だった。
引っ越しを翌日に控えた夜。新作レシピの講評会を終えて帰ってきた和希は、目の前で箱に収まる物体をどうしたものかと、疲れた頭は思考を完全に止めた。
優希は子どもではない。もう三十を数年過ぎて、立派な社会人だ。
しかし荷造りで余ったと思われる段ボールに収まっているのは、間違えようもなく和希の双子の兄であり、優希だった。
とりあえず入ってみたくなったのか、何か和希に訴えたい意図があってやったことなのか。後者だと仮定して、それが寂しさからくるものだったりすると、少々厄介だ。悟ってやれないと拗ねたりして大事になる。
しかし聞きたくても当の本人は眠っており、眠った彼を起こす行為も大変危険だった。機嫌を損ねられたら、疲労に重なる疲労で今日の自分は確実に倒れる。明日の引っ越しへ、大きなダメージを食らうだろう。疲れて思考が鈍っている所為で優希の意思を読み解けない。
飲みかけのホットミルク、読みかけの医療関係の雑誌。パソコンはつけっぱなしだし、明日引っ越しだとわかっているのかと問いたくなる惨状だった。やはり待っている寂しさからくる暴挙なのか。しかしいい大人が段ボールに入って抗議する必要はないと思う。あまりに綺麗にハマっているので、笑うべきか深刻に悩むべきか、和希の考えはまとまらない。
自分は疲れている。もう考えるのはよそう。明日丁重に構って彼の話を聞いてやることで、どうにか許されたい。
「せめてベッドのそばなら助かったんだけど・・・。」
それでも彼を起こさないよう、ゆっくり手を差し入れて優希を抱き上げる。普段ならそこまで重さを感じないが、寝ている上に、自分が疲れている。言ったらそれこそメスで切り刻まれそうだが、いつもの二倍は重く感じる。
「頼むから、起きないでよ・・・。」
持ち上げる最初の難関はクリアしたから大丈夫だろう。あともう少し。もう少しでベッドだと気を抜きかけたところで、優希が腕の中で身じろいだ。
黙って立ち止まり、落ち着くのを待って、和希はまた歩き出す。
「おやすみ、優希。」
どうにかベッドまで辿り着いて降ろす。天使か悪魔かわからない兄を見て、和希は今日一日分の溜息をついた。
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会社の昼休みに慌てて書いたので、辻褄が合っていなかったらすみません!
どうかご容赦を!!
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朝霧とおる
1. 無題
ちょっと不思議ちゃん要素が増したような(笑)
これからも、応援しています!!
Re:
和希×優希、寝かせ過ぎで、申し訳ありません。
不思議ちゃんの度合いが増したのは、それだけ二人がラブラブになった証ということで・・・(笑)
そっと、お収めいただければ幸いです。